Motorsport
2021年11月、富士スピードウェイで開催された86/BRZ Raceの最終戦。RECARO RACING TEAMをサポートする富士スバルから3名のメカニックが派遣された。そのうちのひとりのメカニックは、同年3月に行われたツインリンクもてぎでの開幕戦以来の参加。メカニックとしての経験は十分で、店舗では重要な役割を担っている。スバルのスポーツカーを自ら所有し、サーキットの走行経験もある。スバルのディーラーメカニックらしく、生粋のクルマ好き。ゆえに2021年1月、富士スバルがチームをサポートする形で86/BRZ Raceに年間を通じて参加することが決まるとすぐに自ら手をあげて参加を希望したと言う。
迎えた開幕戦。3名の派遣メカニックに選ばれて参加。しかしレースメカニックとして現場に立つのは初めて。慣れない環境での作業。開幕戦の緊張感。思うように動くことができなかった。それでも寝食共に過ごした4日間でチームから「社長」というニックネームがつけられるほど馴染んだように見えていた。富士スバルから参加するメカニックは年8大会に対して計8名。毎戦2名づつとなると、ひとりに与えられる機会は2回。3月の開幕戦に参加した「社長」メカは、8ヶ月が過ぎた11月の最終戦に2回目の参加となった。初日と2日目の様子を見ていると、何だか少し元気がない印象を受けた。久しぶりに再会したチームスタッフとの会話もあまりないようだった。3日目となった土曜日の夜、食事を取りながら声をかけると、「社長」メカが声を震わせながら謝罪の言葉を並べた。
「自分は、開幕戦に参加して、チームのために何もできなかった。次来る時には必ずチームの役に立ちたいと決めていた。でもいざ来てみるとやっぱり役に立てている気がしない。昼間に皆さんが限られた時間でミッション交換を始めた時も、自分がやらなきゃいけなかった。自分がやりたかった。でもまだ自分には任せてもらえない。でもチームの役に立ちたい。明日の決勝でドライバーの方々に良い結果を残して欲しい。だから明日は自分にできることをします。自分はまだタイヤのタイヤカスを取ることしかできないから、ドライバーの方々のために、自分はタイヤを一生懸命キレイにします」
参加するディーラーメカニックが、普段とは違うレース現場という華やかな舞台を経験すれば良いというのは間違いだと「社長」メカの言葉であらためて気づかされた。元気がなかったのはそのせいだと。わずか2回目というのにそこまで強い想いでチームに参加してくれていた。富士スバルから派遣されるメカニックは、どのメカニックもとても素晴らしい。慣れない現場でも何かあればいつでも動ける状態を常に維持している。みんながクルマ好きで、レースの現場を楽しみにしていて、チームのために役に立ちたいと思っている。富士スバルの文化であろうと思う。
翌日のレース決勝、906号車 RECARO BRZのドライバー井口選手が終盤ペースを上げて、見事3位表彰台をもぎとった。井口選手は、祝いのシャンパンを「社長」メカに手渡した。ドライバーにも「社長」メカの想いがしっかり伝わっていた。こんな素晴らしいスタッフが参加してくれるチームが強くならない訳がない。強くならないといけない。ひとりのメカから私たちがこのレースの素晴らしさをあらためて学んだ瞬間であった。