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Motorsport

2019年のRECARO RACING TEAM発足から、TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupに参戦する906号車。2025年の鈴鹿大会にて他車からの接触を受け、最終戦の岡山大会を残して「廃車」となった。ドライバー近藤翼選手は、クラッシュ時こそ「脳震盪」の症状に見舞われたが、徐々に回復。大事に至らなかったのが救いである。

近藤選手にとっては本大会が3戦目。最終戦の岡山も含めた4戦にかけていた。昨年2024年の鈴鹿大会、近藤選手は金曜日の専有走行で好成績を残したが、大きく変化した路面コンディションにマシンのセットアップをチームとしてまとめきれず予選・決勝は沈んでしまった。近藤選手自身も、事前の鈴鹿テスト、そしてレースウィーク、マシンのセッティングには慎重を期してチームと何度も話し合いを重ねながら準備した。RECARO RACING TEAMからプロフェッショナルシリーズに参戦する3台のSUBARU BRZは、すべてDUNLOPタイヤ。今シーズンは、ウェットコンディションではBRIDGESTONEタイヤが圧倒的に有利である。そのとおり、予選はBS勢が上位を独占した。

それでも予選にて、近藤選手がDUNLOP勢の中で2番手となるタイムを叩き出した . . . が、ベストタイムを出した周回に他車による黄旗が出たことで、タイム抹消となってしまった。不運であった。

無念にも後方からのスタートとなった近藤選手。グリッドスタート直後の激しい混戦状態により「ファステストラップ」狙いにすぐさま切り替えた。逸る気持ちを抑えられないプロドライバーがロケットスタートで走り出す中、冷静な近藤選手。他のマシンと距離を取り、ウォームアップ走行に切り替え、タイムアタックに入った。予選を走ったタイヤにも関わらず「2分26秒5」で見事ファステストラップを刻んだ。

そのまま周回を重ね、すぐに最後尾に追いつく。過去に年間総合優勝の経験ももつ近藤選手にとって、最後尾のマシンのペースはあまりに遅い。S字コーナーから逆バンクで一気に距離を詰め、相手がアウト側にラインを外し並びかけたその瞬間、並走する50号車が縁石にタイヤを引っ掛け、無理してコース内に留まろうとしたため却ってマシンのコントロールを失い、近藤選手の906号車を斜め右横から突き飛ばした。レースウィークに入ってから雨続きのコース外は濡れた芝生。弾き飛ばされた906号車は、そのままフェンスに激突。フロントからの激突だったために発火。オフィシャルによる迅速な消化作業で難を逃れたが、走行不能のリタイアとなった。近藤選手は、軽い「脳震盪」になり、ふらついた足取りで戻ってきた。

車載映像に映る近藤選手は、怒りの言葉を繰り返し発していたが、すぐにいつもの近藤選手に戻り、自分にもチームにも一切愚痴ることなく、怒りを胸の奥に押し込んだ。

2019年から続くRECARO RACING TEAMの906号車は廃車となった。最終戦の岡山は欠場となる。言動はいつも冷静でアンニュイな近藤選手だが、ハートは他のプロドライバーに全く引けを取らないほど熱い。プロドライバーが認めるプロドライバーである。「僕のレース人生でもっとも激しいダメージ」と語る近藤選手。本人もチームも激しく胸が痛む。行き場のない無念の想いである。

レースとはこういうもの。レースだから止むを得ない。誰もが勝ちたいという想いで必死に戦っている。それでもプロならばプロの技術で競うべきである。自分のミスを必死に挽回しようと他車に接触するのはプロの技ではない。ドライバーもさることながら、主催者側も「接触したドライバー同士」にペナルティを課すことで、接触を回避するのではなく、卓越した技術をもつプロのレースに車両規定やレース規定が不十分となっていることを認め、改善するタイミングではないだろうか。すべてのエントラントがそう望んでいる。

906号車「廃車」。その意味は想像以上に重い。


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