Motorsport
2019年の後半、サーキットでの立ち話。RECARO RACING TEAMがより強く成長するために、新たなドライバーを探していると話すと、屈託ない笑顔で「僕、走ります!」と返ってきた。それがスバルの現役ワークスドライバー井口卓人選手だった。スーパーGT300やニュルブルクリンクでの24時間レース。スーパー耐久シリーズ。さらにスバル関連のイベントや自動車部品メーカーの開発テストなどで、一年を通して忙しく飛び回っている井口選手。その井口選手が、参戦してわずか1年のチームに加入するという。チーム発足時、レース経験豊富な佐々木孝太選手を中心にチームづくりをはじめた。エンジニアやメカニック、チームマネジメントを担うスタッフは、それぞれレース経験者であったものの、チーム母体のRECAROは、レースをするには足りていないことばかりであった。そんなチームにこの86/BRZレースで優勝経験をもつ井口選手が移籍をするというのは、相当な覚悟と決意が必要だった。
これにより2020年、RECARO RACING TEAMは、より強くなるために、チームスタッフを強化し、RECARO自身がチームマネジメントを行える準備をはじめた。井口選手は、チーム加入と同時にひとつの目標を掲げた。それが「チームに1勝」を届けるというもの。この86/BRZレースは、経験豊富なプロドライバーとレースを熟知したチームがひしめく、とても過酷なワンメイクレース。そこで1勝することは、スーパーGTで1勝するのに等しいとさえ言う人がいるほどだ。そこで、たとえ1勝であってもわずか2年目のチームにとっては、とんでもなく高いハードルであった。
いよいよシーズンが開幕してレースを重ねていくものの、やはりその1勝は遠く、厳しい戦いが強いられた。コロナの影響もあり、予定されていた国内レースの多くが延期を余儀なくされ、再会されたころには国内レースの日程が圧縮され、プロドライバーの多くがどこかで何かのレースという日々が続いた。それでも強いチームほど、過密日程の中でもしっかりと準備ができており、RECARO RACING TEAMはより一層厳しい条件が重なることになった。それでも、目標を十勝スピードウェイ と定めたチームと井口選手は、事前テストを行い、必要十分な準備でレース本番に挑んだ。同じBRZで参戦する久保凛太郎選手がウェットコンディションでの予選を制し、2番手につけた井口選手が決勝レースで熾烈なトップ争いを繰り広げた。最後の最後、2番手から絶えずプレッシャーを与え続けた井口選手が制し、見事公約どおりのチーム1勝を掴み取った。まさに井口選手の意地が優勝をもぎ取った瞬間であった。
ここからチームが変わった。もっと強くなりたい。強くなってこのチームで、佐々木孝太選手と井口卓人選手と、ふたりのドライバーと共に勝ちたいと思わせた。井口選手の走りがチームの羅針盤となって、進むべき道を示してくれた。3年目の2021年シーズン。チームは今も厳しい現実と戦っている。それでも前を向いて、いつか必ず強いチームになると、挑み続けている。