Motorsport
RECARO RACING TEAMを強いチームへと成長させる。それは小暮卓史にしかできないことかもしれない。いやRECARO自身が小暮卓史と共に強くなることを切望している。
2023年7月22-23日、モビリティリゾートもてぎでTOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupの第3戦が開催された。プロドライバー小暮卓史は、RECARO RACING TEAMよりこのレースのプロフェッショナルシリーズに参戦している。「このレースは非常に難しい。ドライバーのレベルも相当高い。苦しい。プレッシャーも感じている。でも同時にチャレンジしがいがある。クルマが好き。レースが好き。だから自分自身のために。チームのために。何とか良い結果を出したい」小暮卓史はそう語る。
このレースは自分の苦手な分野でもあるという。国内モータースポーツの頂点を極め、実績経験共に豊富な超一流の小暮卓史に苦手な分野があるのか?その理由は、小暮卓史が経験してきた「本物」のモータースポーツとこのレースに違いがあるからだ。小暮卓史がステアリングを握ってきた本物のモータースポーツでは、チューンアップされたマシンがレースカーとして使用されている。究極までに研ぎ澄まされたプロドライバーの感覚で「手足」のように操ることができるモンスターマシンである。それはミリ単位でマシンの挙動をコントロールするとてつもないドライビング技術である。このGR86/BRZ Cupで使用するマシンは、市販車スペックでナンバー付き車両を使用している。標準スペックから強化ブッシュに変更可能ではあるが、そのすべてがゴムブッシュ。ダンパーも変更可能であるがバネレートが低すぎる。ボディ剛性も安全性を高めるロールゲージが搭載されているがプロドライバーが操るレベルではない。それにもかかわらず使用するタイヤは非常にグリップ性能が高い。ボディは動くがタイヤはグリップする。この矛盾がドライバーの研ぎ澄まされた感性を狂わせる。つまりマシンの動きをつぶさに察知してマシンをコントロールすることがNGなのである。小暮卓史の感性が鋭ければ鋭いほど、その優れた感性がドライビングの障害となる。それが小暮卓史の苦悩の原因でもある。
とはいえマシンの特性を理解し、マシンの動きを理解し、そのサーキット、そのコースで最も速い走りを見つける。その作業はモータースポーツの原点ともいえる。ゆえにワンメイク車両で戦うこのレースは、間違いなくドライバーのドライビング技術が勝利への鍵となる。チームは、可能な限りマシンの状態を維持することに徹する。ナンバー付きの市販車ベースが競技車両であるため、使えば使うほど劣化していく。路面の状況や外気温、湿度、多くの外的要因によってマシンの状態は変化する。チームが、メカニックができることは、マシンをいつも同じ状態に調整することだけである。その先は、ドライバーがいかにコンマ1秒、マシンを速く走らせるかである。
第3戦もてぎの予選。走行タイム1秒内に15台が並ぶ。コンマ1秒をどうやって削っていくか。フォーミュラや SUPER GTと同じとも言える。小暮卓史の結果は、予選29位。決勝19位である。わずか10周のワンメイクレースで10台抜きは素晴らしい結果でもある。しかし小暮卓史のいるべき場所はもっと遥か先である。超一流のプロドライバーである小暮卓史の実力は遥か先にある。必ず辿り着ける場所である。そのためにもっとチームが強くなれなければならない。小暮卓史と共に。小暮卓史のために。