CHANGE YOUR SEATシートが変わればクルマも変わる

Motorsport

TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupに参戦するRECARO RACING TEAM。発足から5年目を迎える2023年シーズン。チームは、同レースの昨シーズン終了から全力でテストを繰り返してきた。

このレースは、GR86とBRZの専用カップカーを競技車両としたワンメイクレースである。とはいえ、タイヤは認定された複数のメーカーから選択することができる。サスペンション、ホイール、ブレーキ、マフラーなども選択可能な認定部品がラインアップされている。純粋なワンメイクレースとは言い難い。信じがたいほど超ハイグリップなタイヤをナンバー付き車両に組み合わせているため、走行中のマシンの動きやドライバーがマシンから感じ取れる情報は、一般的なレース車両とは大きく異なる。いや、はるかに異なる。ゆえに国内モータースポーツのトップカテゴリーで完成されたレースマシンを手脚のように操ってきたドライバーは、その経験値が多ければ多いほど、このカテゴリーの、このマシンを「速く走らせる」のには苦労が伴う。RECARO RACING TEAMから参戦する小暮卓史選手もそのひとりである。

「これまでレースを20年以上やってきて、レース業界ではタブーとされた走り方をしなければならないことがたくさんある。真逆と言ってもいいぐらいである。確かにマシンやタイヤの動きに、かなり繊細に、かなり丁寧に扱わなければならないというのは、ドライバーとしてあらためて学ぶことも多い。ただドライバーの感覚で走ってはいけないことが多く、タイヤのグリップを使いすぎてしまってはダメで、このクルマをどう走らせるのが速いのか、知らないとできないことが多い気がする。これまでのレース経験から、こうクルマが動いてくれたら、このタイムが出せる。このぐらいのところをもっとこう走らせることができる。と考えてしまうけれど、このクルマは何かを良い方向に変えようとすると、必ず何かを失ってしまう。非常に難しいです」と小暮選手は言う。

ここまでチームは、常にトップとのタイム差、1秒の壁に苦しんできた。この1秒には、多くの意味が含まれていた。どのチームもドライバーも、常にアップデートを繰り返す。チームとしても、走らせるマシンも、常に進化を繰り返す。自分たちが、コンマ3秒を詰めれば、上位を走るチームもコンマ3秒を詰める。テストを繰り返し、マシンづくりも、ドライバーとマシンの成熟度もアップデートするが、それは参加する全チームに共通していた。足りないものが何か、自分たちにできることは何か、今すべきことは何か、常にその答えを探し求めてきた。その答えを求め続けた4年間であった。これがレースであると学んだ。これがモータースポーツの難しさでもあり、魅力でもあると学んだ。

小暮卓史選手がRECARO RACING TEAMに加入して3年目の今年。チームは、大きく変わったと確信している。やはり小暮選手は、ドライバーとしても、人としても「超一流」であった。小暮選手と共に「速さ」を求めていく、このプロセスに、チームはやるべきことを見出した。その答えは、シンプルにふたつ。ひとつは、マシンを常に同じ状態で維持するということ。マシンの状態の変化をしっかりとモニタリングして、常にベストな状態を保つということ。簡単なようで難しい。プロのメカニックとマシンのメンテナンスを担当する富士スバルが、できるかぎり密に情報を共有することを徹底した。もうひとつは、このワンメイクレース競技車両にしかない独特のドライビング技術を追求すること。ドライバーのみならず、チームスタッフ全員で、知恵を絞り、意見を交わし、同じベクトルで、同じ熱量で、ひたむきにマシンの動きとドライビング技術をシンクロさせることを目指した。小暮選手を中心にチームがひとつになった。

今、RECARO RACING TEAMは、1秒ではなく、コンマ5秒の壁に立ち向かっている。チームとしての強さ。チームスタッフ全員の強さが求められる。このコンマ5秒は、またさらに高い壁である。ただ乗り越えられない壁ではないと確信している。このコンマ5秒を乗り越えるために、走り続ければ、このチームは必ず強いチームになれると確信している。


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