CHANGE YOUR SEATシートが変わればクルマも変わる

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腰痛を科学するRECAROエルゴノミクスシートの最高峰ORTHOPAD(オルソペド)が生産終了となった。1970年代から50年以上もの歴史を重ね、人間工学を追求したRECARO独自のシート哲学を象徴するモデルORTHOPAD(オルソペド)は、その役割を終えることになった。

自動車は、いわゆる馬車の進化系である。つまりエンジンという動力の進化であった。自動車の開拓者たちは、より良いエンジンを開発することが主たるテーマであった。壊れないエンジン。速度をあげていくための強いエンジン。馬の時代も、馬車の時代も、そして自動車が創造された初期の時代も、「椅子」いわゆる人間が腰掛けるシートの重要性に注視することはなかった。ゆえに自動車製造業者の多くがエンジンの開発に始まり、大量生産の時代を迎えた1960年代以降は、ボディを含めた効率的な一貫生産に移行した。馬具職人にルーツをもつRECAROの創業者らは、この「椅子」の重要性を誰よりも信じていた。1960年代まで自動車のボディと内装を手掛けてきたRECARO(当時はロイター社)は、その時代の変化に伴い、世界の自動車業界初となるシート専門メーカーの道を選んだ。

自動車におけるシートの重要性に注視していたRECAROは、1970年代に入ると、現在の自動車用シートに採用されている基本的な機能と構造を創造した。ヘッドレスト、サイドサポート、リクライニング機構、ランバーサポートなどである。そして人間工学と整形医学の専門家らと共に、運転中の疲労軽減と腰痛予防を追求したメディカルシート(現在のエルゴノミクスシートシリーズ)を開発したのだった。その象徴的なモデルがORTHOPAD(オルソペド)であった。ORTHOPAD(オルソペド)は、「運転中の身体に掛かる負担を軽減するために必要なものは、さまざまな調節機能である」という哲学を具現化した。運転する人の身長や体つきに応じて、RECAROシートそのものが調整可能でなければならないと考えたのだ。座高の高い人向けにヘッドレスト(頭部後傾抑止装置)の高さを調節する機能。同じく座高の高い人向けにランバーサポート(腰椎支持)の大きさと位置を調節する機能。また身長が高く脚が長いとされる人向けにシートの深さ(座面の長さ)を調節する機能。そして体つきの細い方向けにサイドサポートの幅を調節する機能。他にもバックレスト(背もたれ)上部(頚椎部あたり)のサポートをインサートするパッドで調節する機能などあらゆる"調節機能"をこのORTHOPAD(オルソペド)に加えた。その結果、シートヒーターやベンチレーションなど含めた10の機能を有した。

このORTHOPAD(オルソペド)が2024年1月をもって生産終了となった。けして運転中の疲労や腰痛に悩む人が少なくなったからではない。むしろ長距離運転や生活習慣病の増加により運転中の疲労や腰痛に悩む人は増えている。ではなぜORTHOPAD(オルソペド)が生産終了となるのか。

1906年の創業。1963年のシート専門メーカーRECAROの誕生。以来、RECAROはRECAROが開発するすべてのモデルに「運転中の疲労軽減と腰痛予防」を追求し続けてきた。モータースポーツのフルバケットシートやストリートのスポーツシートにも同様であった。シートの着座性能、着座位置の適正化、多様化する用途に応じたモデルのバリエーションなど、RECAROは独自のシート哲学と見識を進化させてきた。結果として疲労軽減と腰痛予防に特化したモデルというのは、その役割をひとまず終えたであろうと考えた。将来、このORTHOPAD(オルソペド)を進化させたモデルが新たに開発されるかどうか、今は言及することができない。時代が求め、あるいは新たなコンセプトが生まれたとき、RECAROは再びさらなる究極のエルゴノミクスシートを生み出すかもしれない。

ORTHOPAD(オルソペド)。それは高度経済成長の最中に生まれた歴史を刻んだRECAROの永遠のマスタピースである。


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